1月になりコロナ第6波へ突入しました。各医療機関はその対応であわただしくなっています。
当院でも一般外来とは別に発熱外来の枠を設けていますが、連日テンヤワンヤ、当院スタッフも走り回っています。
まず発熱患者数の増加にともなって大変なのは、
回線がパンクしそうなくらい多い電話です。それが発熱患者さんからのものであればわかるのですが、”医療機関はいま多忙にある”ことを察していない方々からの長電話もあり、ちょっと困ることもあります。
他の大変ごとは、検査キットや防護グッズの不足、それからコロナ陽性者と認定した後、保健所や薬局へ連絡を取るのに手間取ること、などです。
また、スタッフが家庭で濃厚接触者に認定されてしまうケースもでてきました。
こうなると保健所から一定期間出勤停止を指示されるので、クリニックは人手不足におちいり大変です。
これらは、皆さんがTVやネットのニュースで見聞きしている通りです。
ただそれでも、ガンや心臓病や認知症や腎臓病など、一般患者さんの病気もとどまっていてくれません。
新規の病気は見逃せないし、既存の病気の管理も大切。その方々にとって必要な書類も求められており、気が急(せ)かされます。
それに3回目のコロナワクチン接種もいよいよ始まります。コロナ感染猛威は国難ですから、1回目/2回目と同様に今回も昼の休み時に個別接種を行います。さらに月末には集団接種会場にも赴くつもりです。
とにもかくにも、世界と日本の歴史/疾病史の中の一大事にかかわっている気がします。それにこのあわただしさは、クリニックの歴史のいちページにもなる気もしています。。。
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前置きが長くなりましたが、
”気が急く”といえば、今回はコロナ感染後遺症 抑うつへの漢方薬についてです。
確かにコロナ隆盛後、抑うつの患者さんは一定の割合でいらっしゃるようです。
元々そのような性質を持っている方もいるのですが、コロナ感染が契機となった方もいます。これが一時的な悩みで済めば良いのですが、長引く方もいて、治療が必要です。
もちろん西洋医学の向精神薬治療も効果的です。でも東洋医学にも手があります。
そこで今回は、この抑うつへの漢方薬について述べたいと思います。
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前回まで「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」と、それの核にある「四君子湯(しくんしとう)」についてお話をしました。
四君子湯はキーとなる薬なので、その話の流れから、今回もそれを核にし、抑うつを解決させることの期待できる「帰脾湯(きひとう)」を紹介します。
このお薬の記述は13世紀ころの中国医書『済生方(さいせいほう)』にあります。
それには「体の脾(ひ)というところには、思いや考えを調整する働きがある。考えすぎて思い悩むと、心が穏やかでなくなる。それを帰脾湯が治す」とあります。帰脾とは、脾を帰す(脾を元の状態にもどす)という意味のように感じられます。
日本では、江戸時代中期の医師、香月牛山(かつきぎゅうざん)が、処方集『牛山方考(ぎゅうざんほうこう)』の中で、「(帰脾湯は) 思慮過度、心脾を労傷し、健忘や不安を伴う動悸を治する妙剤」と述べました。
また江戸時代後期の医師 浅井貞庵(あさいていあん)は、著書『方意口訣(ほういくけつ)』の中で、帰脾湯と補中益気湯を並べ解説をしています。
「帰脾湯も補中益気湯も、要は脾胃の気を丈夫にして、陽気の方へ作用させるお薬である。
補中益気湯の方は、中焦(胃腸のあたり)の気が落ちた状態を、柴胡(さいこ)、升麻(しょうま)、陳皮(ちんぴ)が引き上げる。
一方帰脾湯の方は、気だけではなく、血(けつ)の方に作用する遠志(おんじ)や酸棗仁(さんそうにん)、竜眼肉(りゅうがんにく)、木香(もっこう)が入っているので・・・心のたかぶりまで調整できる」としています。
抑うつにはたいてい、(1)胃腸の不調 (2)心臓の不調 (3)心の不調、の3つが連鎖します。その結果、
・胃腸の不調:食欲不振
・心臓の不調:動悸
・心の不調:不安、不眠
などがみられます。
どうでしょう、浅井貞庵のいう帰脾湯の適応がぴったりです。
したがって、コロナ感染のようなインパクトの強い経験により、精神的に過労し、くよくよ思い悩んでしまった方の治療には、帰脾湯の効果が期待されるのです。