新型コロナウイルスに感染した方の中に、不快な症状が続く方がいます。これを後遺症といいます。
WHO(世界保健機関)では『コロナ後遺症 (post COVD-19コンディション) 』をこう定義しています。
「COVD-19に感染した人に見られ、少なくとも2か月以上持続し、他の疾患による症状として説明がつかないもの」だと。
患者様の中には、
「少し前にコロナに感染しました、まだ咳や倦怠感がつらいので来院しました。コロナ後遺症です」といわれる方がいます。
でも感染してからまだ日が浅いうちはまだコロナ後遺症とはいいきれません。もちろん後遺症の始まり、と無視できない側面もあります。
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厚生労働省が公開する『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き別冊 罹患後症状のマネジメント(2021年12月1日暫定版)』をみると、
コロナ後の症状には、
・コロナ急性期から持続するもの
・コロナから回復した後に出現するのもの
があり、
症状の程度も変動しやすく、一旦消失しても再度表出することがある、とされています。
後遺症の原因もはっきりしていませんが、病理的な考察は以下のようです。
ウイルスにより、直接的に組織障害がもたらされた
ウイルスにより、免疫系の調節に異常が生じ、炎症反応が進行した
ウイルスにより、血液が凝固し血栓が形成され、血管が障害された
ウイルスにより、ホルモン系の調節に異常が生じた
ただそれでも西洋医学では、標準化された治療や対処の方法が見つかっていません。
東洋医学でも同様ですから、双方異なる視点からのアプローチも有意義と思われます。
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そこで前回まで、生薬の柴胡(さいこ)と”うつ熱”について述べましたので、今回はそれが加味された漢方薬について続きをお話しします。
まずうつ熱とは、
「ストレスや不眠、不適切な環境要因、病気などによっておこる“体内にこもった熱”」のことをいいます。
柴胡には、そのうつ熱を軽減する作用があります。
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コロナ感染後遺症の嗅覚障害は、コロナ治癒とともに改善することが多いのですが、中には遷延してしまうこともあります。
これは病理的機序により障害が生じている可能性もありますが、他の風邪ウイルスでも嗅覚障害は生じるので、本当に新型コロナウイルス感染に特有なのかわかりません。
それに病態の成り立ちにはきっと、精神的ストレスも関わっていることでしょう。
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そうなると、
“炎症”と“ストレスがからむ精神諸候”に、うつ熱を晴らす柴胡剤は選択の一つして有用です。
ちなみに陽証にもちいる柴胡の薬方群を、実証から虚証に向かって並べると、
- 小柴胡湯 (しょうさいことう)
- 柴胡桂枝乾姜湯 (さいこけいしかんきょうとう)
- 加味逍遙散 (かみしょうようさん)
- 補中益気湯 (ほちゅうえっきとう)
- 加味帰脾湯 (かみきひとう)
とイメージされます。
このうち小柴胡湯は陽症の中でも実証向きであり、症状と体力の強い方へのお薬です。
つまり感染の亜急性期までであれば選択できるのですが、コロナ後遺症のような遷延した状況には選びにくいものです。
むしろ陽証の中でも程度の弱い虚実中間証~虚証には、柴胡桂枝乾姜湯や加味逍遙散、あるいはそれ以下のお薬の方が適切です。
これらは単独で用いてもよいし、前回までの四君子湯に重ねて経過観察してもよいと考えます。