増える勢いのとどまらない“新型コロナ新規感染症”と“感染後遺症”です。
新規感染については、全ての患者さんに使える薬がなく変異株が出現する度に流行しています。灼熱感の強いのどの痛みや、40℃にせまる体温のため、発熱外来が混みあい、当院では朝の診療が始まる1時間前から終日、電話の鳴りやまない状況となっています。
最近では「電話がつながらないから」という理由で直に来院される方も出てきました。
(これには困っています)
また救急車の要請も増えているようです。
当院でも(非コロナ疾患の悪化で)緊急入院が必要と判断した方が、”市内の救急車がすべて出払い当院に回せない”という消防側の事情により救急搬送できず困ったことがありました。
この時は、当院スタッフの自家用車で高次医療機関へ搬送し、大事を回避した次第です。
このような出来事は、まさに未曾有なことといえます。
その一方で、日本でコロナが流行りだしてから2年半が経過し、感染後遺症の方も増えてきました。精神面か身体面、あるいはその両方が絡む方など、病態が混在しています。
新型コロナ感染騒動はどうやら、今後100年もしくはそれ以上、世界の歴史、日本の疾病史に残る事態であることは間違いなさそうです。
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さて今回は、感染後遺症にみる下痢への対処についてです。
まず、東洋医学では下痢症を2つに分けて考えます。
◎痢疾(りしつ)
お腹にしぶり感のある“感染性”の下痢のこと。
◎泄瀉(せっしゃ)
消化不良、消化機能低下による“非感染性”の下痢のこと。
コロナ感染期であれば、ウイルスに起因する”痢疾性下痢”が考えられます。
たいていは水様便で、お腹の痛みを伴います。便の色は赤、黒、白、緑など、強い炎症の様子が見て取れます。
これに用いる生薬は主に「黄連(おうれん)、黄柏(おうばく)、黄芩(おうごん)、竜胆(りゅうたん)、苦参(くじん)」になります。
一方、感染後遺症としての下痢は”泄瀉性”です。これも水様便もありますが、泥状便のことが多く、お腹の痛みの少ないものです。
コロナウイルスがすでに体内にいないにも関わらず長々と続くことが問題で、心理的に不安になるのもうなづけます。
これには「人参(にんじん)、甘草(かんぞう)、乾姜(かんきょう)、附子(ぶし)、芍薬(しゃくやく)、枳実(きじつ)」などの生薬を考慮します。
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泄瀉性下痢への治療には、前述の『四君子湯(しくんしとう)』の兄弟薬である『人参湯(にんじんとう)』が重宝されます。
これは長患いにより胃腸が虚弱化し、体全体が冷えに傾いた方のお薬で、四君子湯の「人参、朮、甘草」を残し、「乾姜」を加えた構成になっています。
特に泥状便の改善には「人参」と「乾姜」が必要であり、実際人参湯によって安定した方が、一定数見られています。
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そして付随する症状によっては、人参湯の派生薬を応用することもあります。
たとえば、冷え症状のさらに強い方には、
・人参湯に附子を足した『附子理中湯(ぶしりちゅうとう)』を、
・動悸を感じるなど神経の高ぶった方には『桂枝人参湯(けいしにんじんとう)』を用います。
また、お腹の張り(腹部膨満感)の強い方には、
・人参湯の「人参、乾姜」を残し「蜀椒(しょくしょう)、膠飴(こうい)」を足した『大建中湯(だいけんちゅう)』を、
・お腹~胸~背中に冷えや痛みを感じる方には、人参湯および大建中湯から派生の『当帰湯(とうきとう)』や『解急蜀椒湯(かいきゅうしょくしょうとう』への変更を考えます。
東洋医学にも、選択幅の広い、意外性のあることを理解していただければ幸いです。