この数年、新型コロナウイルス流行で世界中が大騒ぎでした。
医療の現場も大変な毎日が続き、発熱患者の診療に始まって、合間をみながらのワクチン接種、これに並行して行う一般診療と、息をつく間もないくらい多忙をきわめました。
しかしこの冬もまだ、年末まで2種類のA型インフルエンザや他ウイルス、溶連菌などが、
年が明けたらB型インフルエンザ、新型コロナウイルス10波、そして胃腸炎のウイルスなどもあとを絶たず、発熱者は相変わらず減る傾向にありません。
そして最たる問題は、風邪薬、特に咳止めが不足していることです。
昨年秋ごろから見られるこれは、まず西洋医学で使う錠剤がなくなり、次第に小児用薬で代用、それも足りなくなり半切して使用、
そのうち喘息薬や漢方薬で代用されたが、だんだんそれらの供給も追いつかなくなったという緊急事態です。
現場では、
”薬の処方日数と量が制限されたため、症状が改善する前に薬がなくなってしまい、来院の回数が増え混んだ”、
”効果をもくろんで処方しても、その日薬局にある薬に変更されてしまった”、
”効能への配慮が後回しにされるため、成果が上がりにくかった”、という有り態でした。
漢方は当初、咳に用いる薬が足りなくなったのですが、影響は他の類似薬にも広がり、ついには欠品が目立つようになりました。
これはまだこの2月にも続いており、当院では煎じ薬で対応するケースもでています。
そんな状況でも患者様の中には東洋医学治療に感謝してくださる方もおり、かえってこちらが頭の下がる思いをしております。
・・・
そこで今回から、混乱の中で用いたいくつかの感冒の漢方薬についてお話をしたいと思っています。
まずは風邪の漢方薬の代名詞ともいえる『葛根湯(かっこんとう)』から。
昔から、葛根湯医者、風邪のひき始めに葛根湯という言葉があるくらい有名なことは、皆さま周知のとおりです。
これを構成する生薬は、
葛根(かっこん)
麻黄(まおう)
桂皮(けいひ)
芍薬(しゃくやく)
大棗(たいそう)
生姜(しょうきょう)
甘草(かんぞう)、の7つです。
この薬の対象者は、発熱を伴う急性熱病の初期、以外に、慢性的に肩や手足にどんよりとした重みを感じる方、熱感のある皮疹のある方、などです。
急性熱病にしぼって考えると、悪寒があって発熱し、首や体が強ばり、頭痛する方、
要(かなめ)は、まだ汗が自然に出ていない、つまり背中などが汗で湿っていない、という点です。
これは2000年前の中国医書『傷寒論(しょうかんろん)』が原典であり、それに「項背強ばること(こうはいこわばること)、几几(きき、しゅしゅ)、汗無く 悪風(おふう)するは、葛根湯 之を主る(これをつかさどる)」と書かれています。
漢方専門医であれば、脈がざわざわ浮いて力を感じ、臍のわきに圧痛があるかどうか、という点にも注意をはらいます。
これには派生薬もあり、
鼻疾患の方には「葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)」を
のどの痛みの強い方には「葛根湯加桔梗石膏(かっこんとうかききょうせっこう)」を
皮膚病や神経痛の方には「葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)」を用います。
・・・
一方で、体力のない方がこれを飲むと、中の麻黄が体に障る点が欠点です。
このような方はたいてい、食欲がなくなったり、眠れなくなったりします。
そんなとき、葛根湯から麻黄を除いた(弟分の)「桂枝加葛根湯(けいしかかっこんとう)」が用意されています。