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2024年6月29日 18:18

108. 感冒・鼻炎・咳に漢方薬(桂枝湯)

 今回は、桂枝湯(けいしとう)の話です。

 以前、風邪の初期に用いる漢方薬『葛根湯(かっこんとう)』の話をしましたが、その葛根湯は、今回の桂枝湯の派生薬といえるものです。

 

 “派生薬”とは、核となる生薬をすえ置いたまま、枝葉だけを変えて、効能を変化させた親戚薬のことをいいます。

 

 桂枝湯は、

  桂皮(けいひ)

  甘草(かんぞう)

  芍薬(しゃくやく)

  大棗(たいそう)

  生姜(しょうきょう)

の5つの生薬で構成されています。

 

 生薬の構成から、次のようなことが言えます。

桂皮と甘草の組み合わせが

(=桂枝甘草湯(けいしかんぞうとう)

  • 動悸などの交感神経系に作用する
  • 身体の「陽」に作用する

 

芍薬と甘草の組み合わせが

(=芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)

  • 筋肉を緩め、副交感神経系に作用する
  • 身体の「陰」に作用する

 

 そしてこの2方が合わさった桂枝湯は「陰と陽が調和したバランス良いお薬」となります。

 そのため、江戸時代の名医、”尾台榕堂(おだいようどう)”や”浅田宗伯(あさだそうはく)”は、

『桂枝湯は、経方の権興(けんよ)であり、衆方の粗(そ)』、つまり「漢方の基本中の基本薬」と表現しました。

 

・・・

 さてその桂枝湯ですが、葛根湯とは、

『葛根湯 = 桂枝湯 + 葛根(かっこん) + 麻黄(まおう)』の関係にあります。

 すなわち、

“葛根湯には麻黄が含まれる(麻黄剤)”、

“桂枝湯には麻黄が含まれない(非麻黄剤)”

 の違いがあります。

 

 そして投与の対象は、2000年前の中国医書『傷寒論(しょうかんろん)』に、

◇葛根湯は、「項背強ばること(こうはいこわばること)、几几(きき、しゅしゅ)、汗無く 悪風(おふう)するは、葛根湯 之を主る(これをつかさどる)」つまりは、

 葛根湯は、急性熱病において、悪寒があって発熱し、首や体が強ばり、頭痛する者、汗が自然に出ていない、背中などが汗で湿っていない、体力のある者に。

 

一方、

◆桂枝湯は、「頭痛発熱し、汗出て、悪風する者、桂枝湯之を主る」つまりは、

 桂枝湯は、悪寒があって発熱し、首や体が強ばり、頭痛する者、すでに汗が自然とにじみ出ている、背中などが汗で湿っている、体力のない者に、とあります。

 

 よって桂枝湯の方意は、

「皮膚の保温作用が弱いため、体温が上がる前からダラダラ発汗してしまい、ウイルスやばい菌に対し抗病力があがらない方」

「葛根湯や麻黄湯(まおうとう)などの麻黄剤では脱汗してしまい、体力が消耗、治癒がおくれてしまう方」

こんな体力不足の方でも、桂枝湯でほどほどに体温を上げて発汗させて治療を促す、点にあります。

・・・

 

 さて参考までに以下を上げておきます。

 漢方診療三十年 大塚敬節著(創元社)から、桂枝湯の要点です。

 (1)(桂枝湯は)風邪の初期によく用いられるが、寒気や微熱がとれず、他に大して異常を発見できないときにも用いてよい。

 (2)(桂枝湯は)麻黄湯や葛根湯を用いて汗が出たが、それでも尚、熱と寒気がとれないときに用いてよい。

 (3) 古人は、桂枝湯は気血のめぐりを良くし陰陽を調和させる作用をもつため、強壮の作用がある、と考えていた。

 (4)中国古医書「金匱要略(きんきようりゃく)」には、妊娠初期で桂枝湯を用いる場合がある、と述べられている。

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