今回は、桂枝湯(けいしとう)の話です。
以前、風邪の初期に用いる漢方薬『葛根湯(かっこんとう)』の話をしましたが、その葛根湯は、今回の桂枝湯の派生薬といえるものです。
“派生薬”とは、核となる生薬をすえ置いたまま、枝葉だけを変えて、効能を変化させた親戚薬のことをいいます。
桂枝湯は、
桂皮(けいひ)
甘草(かんぞう)
芍薬(しゃくやく)
大棗(たいそう)
生姜(しょうきょう)
の5つの生薬で構成されています。
生薬の構成から、次のようなことが言えます。
桂皮と甘草の組み合わせが
(=桂枝甘草湯(けいしかんぞうとう)
- 動悸などの交感神経系に作用する
- 身体の「陽」に作用する
芍薬と甘草の組み合わせが
(=芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
- 筋肉を緩め、副交感神経系に作用する
- 身体の「陰」に作用する
そしてこの2方が合わさった桂枝湯は「陰と陽が調和したバランス良いお薬」となります。
そのため、江戸時代の名医、”尾台榕堂(おだいようどう)”や”浅田宗伯(あさだそうはく)”は、
『桂枝湯は、経方の権興(けんよ)であり、衆方の粗(そ)』、つまり「漢方の基本中の基本薬」と表現しました。
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さてその桂枝湯ですが、葛根湯とは、
『葛根湯 = 桂枝湯 + 葛根(かっこん) + 麻黄(まおう)』の関係にあります。
すなわち、
“葛根湯には麻黄が含まれる(麻黄剤)”、
“桂枝湯には麻黄が含まれない(非麻黄剤)”
の違いがあります。
そして投与の対象は、2000年前の中国医書『傷寒論(しょうかんろん)』に、
◇葛根湯は、「項背強ばること(こうはいこわばること)、几几(きき、しゅしゅ)、汗無く 悪風(おふう)するは、葛根湯 之を主る(これをつかさどる)」つまりは、
葛根湯は、急性熱病において、悪寒があって発熱し、首や体が強ばり、頭痛する者、汗が自然に出ていない、背中などが汗で湿っていない、体力のある者に。
一方、
◆桂枝湯は、「頭痛発熱し、汗出て、悪風する者、桂枝湯之を主る」つまりは、
桂枝湯は、悪寒があって発熱し、首や体が強ばり、頭痛する者、すでに汗が自然とにじみ出ている、背中などが汗で湿っている、体力のない者に、とあります。
よって桂枝湯の方意は、
「皮膚の保温作用が弱いため、体温が上がる前からダラダラ発汗してしまい、ウイルスやばい菌に対し抗病力があがらない方」
「葛根湯や麻黄湯(まおうとう)などの麻黄剤では脱汗してしまい、体力が消耗、治癒がおくれてしまう方」
こんな体力不足の方でも、桂枝湯でほどほどに体温を上げて発汗させて治療を促す、点にあります。
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さて参考までに以下を上げておきます。
漢方診療三十年 大塚敬節著(創元社)から、桂枝湯の要点です。
(1)(桂枝湯は)風邪の初期によく用いられるが、寒気や微熱がとれず、他に大して異常を発見できないときにも用いてよい。
(2)(桂枝湯は)麻黄湯や葛根湯を用いて汗が出たが、それでも尚、熱と寒気がとれないときに用いてよい。
(3) 古人は、桂枝湯は気血のめぐりを良くし陰陽を調和させる作用をもつため、強壮の作用がある、と考えていた。
(4)中国古医書「金匱要略(きんきようりゃく)」には、妊娠初期で桂枝湯を用いる場合がある、と述べられている。