今年の夏も異常な暑さが続いています。
昨年夏は、気象庁が統計を取り始めた120年の中で「最も気温が高い夏」と言われていました。
でも今夏は、全国平均気温が例年と比べ2℃高く、2年連続で最高温度を記録したそうです。
またEU(欧州連合)気象情報機関であるコペルニクス気候変動サービスの報告では、徐々に気温と水温が上昇しており、地球がこれほどの高温になるのは12万年ぶり、とのことです。これが本当のことなら興味もわきますが、最近の気候温暖化を考えればうなづけなくもありません。
生物生態系では、いくつかの感染症は温暖化との関連が示唆されています。
たとえば温暖化により、ウイルスや細菌を媒介する動物の分布や数が変化し、これによって感染症が従来とは異なる様相を呈しています。
実際内科では、夏には少なかった感染患者が来院し、待合室はいつもいっぱいになっています。
そしてそんな中にも「胸が痛い、貧血がひどい、血便や血尿が出た、ストレスでメンタルがやられた‥」など、感染症とは違う訴えの方も混ざりますので、待合室から見えにくいところで、医療者は対応を急かされ走り回っています。
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ところで、
今回は、発熱極期に用いる漢方薬「白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)」を紹介します。
漢方の世界では、発熱疾患の初期の頃を「太陽病(たいようびょう)」といいます。これは病邪がまだ体の表面にいる状況で、この頃の症状は、悪寒、発熱、頭痛、首筋の凝りが特徴です。
それから数日経ると、病邪が少し体の内側に移動し始めます。その時期を「少陽病(しょうようびょう)」といいます。
この頃の症状は、口の中におかしな症状が出たり、朝と夕の熱の出方が変わったり、咳が出てきます。
さらに数日経つと、熱が充実し体温が極限まで上がることがあります。その時期のことを「陽明病(ようめいびょう)」といいます。
この時の症状は、熱が上がる、熱臭のある汗がたくさん出る、熱にうなされてうわ言をいいだす、口がひどく渇く、お腹が張る、のたぐいです。
これは、病邪が体の深層「内臓」に宿ってしまった状態と考え、最も熱の盛んな病位と考えます。
そんなつらい体調に用いる漢方薬が、白虎加人参湯です。
その白虎加人参湯は、
石膏(せっこう)
知母(ちも)
人参(にんじん)
粳米(こうべい)
甘草(かんぞう)、で成り立っています。
石膏は一般的に、
大量の石膏と知母を組み合わせると、
- 汗をかいた後に遷延する熱による煩渇(はんかつ)、口の渇きを治す作用がある
- 鎮静をもたらすことができる
中等量の石膏と麻黄(まおう)により、
少量の石膏で、
- 湿疹を治す事ができる
- 血圧を下げられる
- 乾燥性便秘を治す作用が期待できる
というものです。
白虎加人参湯の人参、粳米、甘草には潤いをつける作用があるため、「大量の石膏と知母+人参、粳米、甘草」により、熱を冷ましつつ、体の奥から潤すことができる、となります。
ちなみにこの効能は、
明治の漢方名医「浅田宗伯(あさだそうはく)」は、
著書『傷寒辨要(しょうかんべんよう』の中で
「白虎の類によって、元気が閉じようとしている者をしとやかに(疏窕(そちょう))すべし。・・・甘雨を一粒たらし、うるおいをつける(嘉潤(かじゅん)に至らせる)ことは、まるで枯れ苗を再起させるようなもの」と述べています。
つまり感染症治療において、白虎加人参湯は以下の状況で用いています。
(1) 体の内外の熱が甚だしくてつらい時に
(2) (体表で)熱を冷まし、頭痛や咳を治す目的で
(3) (体奥で)熱によって脱水した体に、潤いをつけたい時に
(4) うわごとが始まるほど、熱でうなされている者に
西洋薬ではロキソニンやカロナールのような解熱剤がありますが、体に潤い、までは期待できないので、
白虎加人参湯は、熱でうなされた時の救世主薬です。