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2024年9月4日 17:50

111. 感冒・鼻炎・咳に漢方薬(大黄甘草湯)

 前回まで、発熱極期に用いる漢方薬として「白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)」のお話をしました。

 今回は同じく発熱極期に用いる漢方薬に「大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)」を紹介します。

 

 漢方では、発熱疾患の初期の頃を「太陽病(たいようびょう)」といいます。これは病邪がまだ体表面にいる状況で、この頃は、悪寒、発熱、頭痛、首筋の凝りをきたします。

 

 それから数日経て、病邪が少し体の内側に移動し始めた時期を「少陽病(しょうようびょう)」といいます。

症状は、口の中におかしな症状が出たり、朝と夕の熱の出方が変わったり、咳が出てくる、などに変化します。

 

 そして熱が下がらず数日経ったステージを「陽明病(ようめいびょう)」といいます。

主な症状は、熱が上がる、熱臭のある汗がたくさん出る、熱にうなされてうわ言をいいだす、口がひどく渇く、そしてお腹が張る、というものです。

 これは、病邪が体の深層「内臓」に至った状況であり、最も体熱の盛んな時期です。

 

 発熱した子どもには、

 夜中におかしな夢を見てうなされる、

 異常な行動をとる、

などの症状は見受けられることです。

 これは現代では薬の副作用?と言われてしまいますが、2000年前の中国医書『傷寒論(しょうかんろん)』に「(陽明病期には)高熱により、うわ言(譫語せんご)あり」と書かれており、医薬のせいとは言いきれない、自然な経過ともとれる症状です。

 

・・・

 この陽明病期に、前回は白虎加人参湯を紹介しました。

しかし同じ時期に、もしひどくお腹が張る場合は、それよりもっとふさわしい薬があります。

それを承気湯類(じょうきとうるい)といい、代表格が大黄甘草湯です。

 

大黄甘草湯は、

  大黄(だいおう)

  甘草(かんぞう)

の2つの生薬で成り立ち、とてもシンプルですが、それゆえ効能が明快です。

 

・・・

 陽明病は傷寒論に

〇 陽明の病たる、胃家実(いかじつ)、是(これ)なり

〇 体内の食物・水分が乾燥し腸内に結実(けつじつ)する、燥屎(そうし)になる

と述べられています。

 

 胃家実とは、強い腹満が生じること、

 結実とは、邪毒が体におさまっていること、

 燥屎とは、乾燥した便のこと、

をいいます。

 

 つまり、熱が遷延し脱水した結果、お腹に乾燥した便が溜まり張ってくるというわけです。

この時当然、病邪もお腹に”毒”として残っています。

 

そして重症度は、糞便の状況により、

「燥屎>大便鞕(かたい便)>大便難(便が出にくい)>不大便(便が出ない)」

に分けて考えています。

 

・・・

 子供などは熱のため寝ていて、ある時急に便意を催しトイレで排便、その後解熱、のようなことがあります。

 しかし排便なく、お腹が張ってきて気持ちまでふさがるようなら、病邪を便にくるんで体外に吐き出す、手もありです。

この際の基本薬が、大黄甘草湯というわけなのです。

 

 大黄は、

 江戸時代の名医 吉益東洞(よしますとうどう)の著書『薬徴(やくちょう)』に

「(大黄は)結毒を通利する。故によく胸満、腹満、腹痛および便閉、小便不利を治し、旁ら発黄、瘀血(おけつ)、腫膿を治す。」と述べられています。

 

 陽明病の熱積の便秘でお腹が張ってきたときは、承気湯類で大熱を冷まし、体にこもった毒を排便させる、という治療を選択します。

 

 抗生物質、抗ウイルス剤、点滴のなかった時代は、そう考えられ、そのように治療されていました。

江戸の医学は、世界一のレベルだった、とも言われています。

 

 これを“非科学的”というなかれ、

現代でも意外と的を得ている、と考えさせられることもあるのです。。

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