先日千葉西総合病院で、“海外で発生し、国内に持ち込まれた新興感染を想定した対応についての研修会”があり、松戸市保健所、近隣病院、高齢者施設に加え、当院も参加させていただきました。
その意見交換の場で、どこの施設でも今、新型コロナ、インフルエンザ、ヘルパンギーナ、マイコプラズマなどの感染が増えていることをうかがいました。
症状はやはり、”発熱、のど痛、長引く咳”のようです。
ただ咳については心配があり、今年もどうやら咳止め薬が不足し始めた気配です。
そのような事情も考慮し、今回感染後半期からみられる咳の漢方治療薬「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」についてお話しいたします。
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さて、風邪後半期の咳といえば特徴は、
- 乾燥している
- なかなかとれない粘った痰を伴う
- 喉が引っかかる
- 夜、布団の中で出やすい
というものです。そんなときに有効な漢方薬のひとつが麦門冬湯となります。
麦門冬湯は、
麦門冬
半夏(はんげ)
粳米(こうべい)
大棗(たいそう)
人参(にんじん)
甘草(かんぞう)
の6つの生薬で構成されています。
以前、風邪の発熱極期に「白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)」が良いことをお話ししましたが、
これは、高熱に付随する脱水に「枯れ苗を再起させるよう体に水分を与え、うるおす」特徴を有していました。
この「うるおす」ことを受け継いで派生した薬が麦門冬湯となります。
つまり、
◎白虎加人参湯から、
(人参 糠米 甘草)+ 石膏、知母
→竹葉石膏湯(ちくようせっこうとう)を経て・・、
(人参 糠米 甘草)+ 石膏、麦門冬、半夏、竹葉
→◎麦門冬湯に、
(人参 糠米 甘草)+ 麦門冬、半夏、大棗
と共通生薬を残し、引き継がれています。
これにより麦門冬湯は、風邪後半期の
1.乾燥した咳や粘痰のある肺をうるおす
(鎮咳、去痰作用)
2.口の渇きや寝汗を治す
(滋陰、清熱作用)
ことが可能となります。
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麦門冬湯は、中国の古医書『金匱要略(きんきようりゃく)』に「大逆上氣、咽喉不利、逆を止め、氣を下す者は、麥門冬湯之を主る(つかさどる)」と紹介されており、
大逆上気(たいぎゃくじょうき)とは、
・顔が赤くなるほど咳き込むこと
咽喉不利(いんこうふり)とは、
・のどが炎症によって、いがらっぽくなること
なので、麦門冬湯はそれらを止めることができる、と述べられているわけです。
明治の漢方医 浅田宗伯(あさだそうはく)は、
著書『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』の中で、
「此の方は・・・肺痿、咳唾、涎沫止まず、咽燥いて渇する者に用ふるが的治なり」と表現しています。
また著書「橘窓書影(きっそうしょえい)」にも、
「37-38歳の女性に投与したその経過」を実例として残しています。