前回、虚弱者の漢方薬に、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)を紹介しました。
これまで、
体力があり、まだ汗をかいていないようであれば・・
葛根湯(かっこんとう)を
体力がなく、汗がすでににじみ出ているようなら・・
桂枝湯(けいしとう)を用いることを述べました。
一般的に、葛根湯や麻黄附子細辛湯に含まれる生薬「麻黄(まおう)」は、上気道から気管支にかけ効能を発揮するものですが、
虚弱者の場合、それによって、だるくなったり、胃腸に障ったりトラブルが生じやすいものでもあります。
仮に麻黄を含まない桂枝湯であっても、“超虚弱者”の場合、胸や胃にもたれ感が生じることもあり、飲めないこともあります。
そこで「香蘇散(こうそさん)」を思い浮かべます。
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香蘇散は、1000年前の中国の処方集『和剤局方(わざいきょくほう)』に「四時(しじ)の瘟疫(うんえき)傷寒(しょうかん)を治す」、つまり
1年の春夏秋冬の折に生じやすい感染症を治す、という薬能が記されているものです。
構成は5つの生薬でなり、
香附子(こうぶし)
蘇葉(そよう)
乾生姜(かんしょうきょう)
陳皮(ちんぴ)
甘草(かんぞう)
中でも気剤(きざい)の香附子と蘇葉は、停滞した精神の改善を促します。
これは、感冒や胃腸障害にあって、
胸元やみぞおちが詰まってしまう
黙々としてやる気/元気がなくなる
食べたり飲んだりできなくなる
など精神神経症状を併発した方に良いというものです。
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明治の漢方医 浅田宗伯(あさだそうはく)は著書「勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)」の中で
『この方(香蘇散)は気剤の中でも、揮発(きはつ)の効(気持ちを引き立てる効果)がある。それ故、男女ともに、気滞で胸中心下が痞塞(ひそく)して、黙々として飲食したがらない場合に良い』と述べています。
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最近新型コロナ感染症が流行って以来、後遺症としての気分沈滞モードの方が増えています。
ちまたでは、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が処方されるケースを見かけますが、内に含まれる生薬の柴胡(さいこ)が合わず、かえって体調が悪くなってしまう方も少なくありません。
そこで、
元々体が弱く、神経過敏、神経質で疾患の背後から精神的不安がとめどもなく漏れ出てしまうような方に、香附子や蘇葉を含む香蘇散がピタリ適合するといえるのです。