内科には、長引く"咳"で来院される方がいます。
西洋医学的に、咳喘息、の診断の下、治療に喘息用吸入薬が用いられることがあります。
しかしながら、吸入薬に含まれる気管支拡張成分が動悸をもたらしたり、あるいはステロイド成分が喉や声帯を荒らしてしまったりするようなこともあり、そのようなときは東洋医学での対応が期待されます。
そこで、(3)風邪の中期~慢性期、に用いる代表的なエキス剤を紹介します。これらも症状の微妙な差異によって使い分けています。
滋陰降火湯(じいんこうかとう):
薬の構成が「麦門冬湯(ばくもんどうとう)+四物湯(しもつとう)」に似ていることから
“痰を伴わない乾いた咳”
“空気の乾燥した冬の夜に出やすい咳”
などに用いています。
後世派漢方名医 矢数有道先生の有名な口訣(くけつ)では、この薬は
・皮膚が浅黒い人
・便秘傾向で固い便の人、この薬を用いて下痢しない人
・乾いた咳の人
に用いられます。
さらに口訣は続き、
・皮膚は必ずしも浅黒くなくても効き目があるが、浅黒ければ申し分ない
・この薬を飲んで下痢をするかしないかは、本方の適応か不適応かを決定しても良い。下痢せぬものは安心して継続してよい
とあります。
滋陰至宝湯(じいんしほうとう):
滋陰(じいん)とは、陰をうるおす、という意味なので、これを薬名に冠するものは、体の津液(しんえき)を補うことが期待されます。
つまり「咳は乾いている、痰は粘稠で切れない」ものが適応となります。
これは有名な「加味逍遙散(かみしょうようさん)」に近い薬なので、長引く咳をベースにして、
・胃腸が弱く衰弱気味の人
・精神症状のある人
・微熱などの自律神経症状が重なっている人
などが適応となります。
清肺湯(せいはいとう):
肺を清めるというのは、肺の熱(炎症)を冷ます、という意味です。
1000年前の中国医書『万病回春(まんびょうかいしゅん)』に、痰嗽(たんそう)という表現があります。
これは、痰が多く、咳をすると胸がゼロゼロ鳴る状態、痰が出切ると咳も治まるような状態のことをさします。
実は清肺湯は、この痰が切れるまで激しくせき込む“痰嗽”に良いものです。
風邪をひいたとき、次の経験のある方にはイメージしやすいと思いますが、
・気道の炎症によって粘っこい痰が生じ、それが引っかかってなかなか切れない
・それを出そうとして苦しむ
・それでも出そうとすると、強い咳になる
そんな場合に、清肺湯を用います。
これは風邪の咳のほかに、生薬の麻黄の使えない慢性咳や喘息患者にも重宝されています。