年末から2月にかけて感染症の多い状況でしたが、 3月になり花粉症が増えてきました。
その際悩みの一つである鼻炎は「ティッシュが手放せない」というものから、「頭や眉間が痛い」「物を考えることが面倒」など、生活に支障をきたすものまであるようです。
治療を一般的な西洋薬で検討する場合、各種アレルギー薬や抗生剤で対応します。
その悩みが深いほど、高次の医療機関での治療が好まれますが、大学病院であってもクリニックであっても、その内容には意外と差がありません。
でも漢方での治療は、西洋医学のそれと異なります。
そこで今回は漢方薬での対処法について、お話しましょう。
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まず東洋医学では、治療に先立ち「個人の体質」を重視します。
つまり、体質的に強い方を実証、弱い方を虚証、そしてその間の方を(虚実)中間証と考えます。
そして「罹患期間」を考慮します。
具体的には、
・実証の、急性期であれば、葛根湯(かっこんとう)を
・実証の、慢性期であれば、葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)を用います。
逆に、
・虚証の、急性期では、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)を
・虚証の、慢性期では、荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)を用います。
そして、
・中間証の、急性期には、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)を
・中間証の、慢性期には、辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)で対処します。
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鼻閉(はなづまり)、鼻漏、頭重感、嗅覚障害がひどいとき、治療の要は生薬の『麻黄(まおう)』と『辛夷(しんい)』です。
麻黄は「葛根湯」「麻黄附子細辛湯」「小青竜湯」に含まれ、急性症状に用いられます。
一方、辛夷は「葛根湯加川芎辛夷」と「辛夷清肺湯」に含まれ、前者は水っぽい(漿液性)鼻漏に、後者は色のついたドロッとした(膿性)鼻漏に用いられます。
これらは、耳鼻科でも大変といわれるくらいの鼻/副鼻腔の“慢性炎症”への治療に利用されています。
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そしてその慢性炎症をさらに抑える工夫として、
辛夷清肺湯を煎じ薬で処方する場合は、中の生薬の量を加減したり、必要な生薬を追加して、効果の期待できるものに改変します。
エキス剤の場合は、そこまでの効果が期待できないことに加え、既製品であるがゆえ細かなさじ加減ができないこともあり、別のエキス剤と組み合わせて用いることになります。
たとえば、抗炎症作用の増強という点を重視し、生薬の柴胡(さいこ)剤を合わせたい場合は、
「小柴胡湯(しょうさいことう)」や
「十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)」
を併用します。
また排膿を促したい場合は、生薬の桔梗(ききょう)、枳実(きじつ)を含む
「排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう/はいのうさん および とう)」
を併用します。
(ちなみに、先述の「荊芥連翹湯」にはこれら、柴胡、桔梗、枳実が含まれています。)
そして後鼻漏に誘発され、発作的に強い咳が出てしまう場合は、生薬の半夏(はんげ)を含む
「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」や
「柴朴湯(さいぼくとう)」
を合わせることになります。
このように東洋医学は、状況によって幅のある治療を施すことができる点が長所といえるのです。