喉のつまり
これは経験のある方でしたら、そのおかしな症状を理解できることでしょう。でもない方には分かりにくいものかもしれません。
実は私も、この症状が気になったことがあります。
「悪いものかもしれない」と受けた検査では異常がありませんでしたが、半年もの間不快感が続き、後に述べる漢方薬を飲んで改善させたことを覚えています。
首は、頭と胴体をむすぶ狭い空間であり、いろいろな臓器が所狭しと並んでいます。喉も構成要素の一つです。
その喉がおかしいとなると、
風邪にみる扁桃腺や鼻の炎症の影響であったり、
耳鼻科的な喉頭や声帯あたりの問題であったり、
内科でいう甲状腺や逆流性食道炎のトラブルであったり、
整形外科でいう頸椎の問題であったり、
西洋医学では臓器に分けて考えられます。でも、なかなかすっきりいかないこともあります。
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先日このように話される男性患者さんがいました。
「咳き込むと(喉の)中が膨れ上がるような、息が詰まるような感じがします。
内科で胃カメラを受けてきましたが、特に何ともない様子でした。耳鼻科にもかかり、ファイバーで喉の奥まで診てもらいましたが、声帯はきれいと言われました。
各科でもらった薬では、効果がありませんでした。」
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そのような時は、東洋医学の出番です。
この医学では、気が体をめぐる、と考えられています。ですので、気が痞える(つかえる)と、体の局所が詰まりだす、と考えます。喉のつまりも同様で、気のうっ滞が、不快な症状を作り出しています。
昔人はこれを「梅核気(ばいかくき)」「咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)」と表現しました。まるで梅の種や、あぶった肉片が喉の奥にひっかかったもの、というわけです。
気の痞えは、例えばストレスなどによって体の局所に起こりやすく、胸部で生じると「胸脇苦満(きょうきょうくまん)」といいます。また胸と腹の境目で生じると「心下痞(しんかひ)」と表現します。
喉のつまりに対するお薬は、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」が有名です。
これは、気をめぐらすお薬の基本「気剤の権興(きざいのけんよ)」と言われるもので、今から2000年前に端を発しています。中に含まれる厚朴(こうぼく)や蘇葉(そよう)という気の生薬が、緊張を解きほぐすのです。
また厚朴は煎じ薬では、強めの唐厚朴(からこうぼく)と、少し弱めの和厚朴(わこうぼく)とを使い分けるので、患者さんの体質まで考慮することができます。
さらに、これに「小柴胡湯(しょうさいことう)」を合わせた「柴朴湯(さいぼくとう)」というお薬もあります。
これは近年日本人が生み出した処方なので「本朝経験方(ほんちょうけいけんほう)」に分類されています。
昭和の漢方復権に尽力された東京の大塚敬節先生(故)は、『大柴胡湯(だいさいことう)に半夏厚朴湯』を、京都の細野史郎先生(故)は『小柴胡湯に半夏厚朴湯』を合方されました。この合方剤である柴朴湯が有効な場合も見受けられます。
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ところで、先ほどの患者さんには「柴朴湯」を処方してみました。
内服2か月後には「喉の症状は、以前より良くなってきた気がします。」、4か月後には「喉の症状は、もう良くなりました。」と、すっきりされました。
このように西洋医学で改善を見ない場合は、漢方薬を試されることをお勧めいたします。