・胃腸の働きが悪くなり、お腹がこわばったとき、改善させる漢方薬があります。それは『建中湯(けんちゅうとう)』というお薬です。
建中とは「中(ちゅう)を建て直す」という意味ですが、中とは胃腸のことをあらわします。昔から虚弱な人は、まず胃腸から丈夫にし元気にさせるべし、という考え方があり、その役割を果たすお薬が建中湯というわけです。
胃が弱まると元気がなくなりますし、腸がおとろえると、いろいろな症状がでてきます。たとえば、便秘、下痢、お腹の冷えなどなど・・
ちょうど西洋医学でも、胃腸は人体最大のリンパ組織であり、抵抗力を維持するため重要な臓器と考えられています。
そこで、もろもろの症状が出る前に用いられるお薬が、建中湯となります。
・建中湯は、もともと『桂枝湯(けいしとう)』というお薬から発展した漢方薬です。
桂枝湯は「すべての漢方薬は桂枝湯から始まる」といわれるくらい古い薬で、風邪の症状などに用いられています。
そのお薬は「桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)」の5つの生薬で構成されますが、その中で「芍薬」だけを増量し、お腹の症状にも対応できるようにしたものが、『桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)』であり、建中湯の主役となります。
そしてこれをベースに用途に合わせ仲間がいくつかあるのですが、それは拙著『冷え症を直す、女性の悩みにやさしい漢方(現代書林刊)』の中で紹介をさせていただきました。
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さて、桂枝加芍薬湯で、下腹の痛み、腰背の痛みが改善した55歳女性を紹介します。
~以前から、よくお腹をこわす質(たち)でした。しかも更年期になると、仕事の多忙もたたり、お腹と腰のこわばりを感じるようになりました。
当初鍼灸治療が気に入り、そこに通院していましたが、先生から「体の芯から改善をした方が良いですよ」と漢方薬をすすめられたのです。~
当院での診療では、お腹を診せていただきました。
腹診では、腹の筋に緊張感が見られています。これでは下腹から腰部にかけて慢性的な違和感につながります。そこでこわばりを目安にし、桂枝加芍薬湯を処方してみました。
しばらくお飲みいただくと、お腹のこわばり感は薄れてきたそうです。
「まるで薄皮がはがれるように、下腹から腰部にかけての違和感が改善する」と気に入ってくれました。そして痛みは軽減し、あれほどこわしていたお腹も整ってきたようです。
鍼灸の先生からは「余分な緊張が解け、自律神経の働きが良くなってきたせいですよ」と言われたそうです。
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・建中湯は、お腹が冷えていなくても使えるお薬です。
効果のみられるのは、腹筋が緊張して張りつめている人です。胃腸がこわばりが、身体表面にまで及んでいるようなタイプの方なのです。