冷え症といえば、たいてい「手足が冷える」と訴えて来院される患者様が多いものです。
確かに冬には手先や足が冷たくてジンジンする...などはよく聞かれます。そこで今回は、冷え症としてまず「手足の冷え」をテーマにお話をします。
さて冷えを感じている方と握手をすると氷のように冷たいものです。その手の色は青白く、中にはしもやけのように青白さの中に赤みを呈している方もいらっしゃいます。
ほとんどの方はすでに病院で相談をなされていますが、なかなか改善せず、そのまま様子をみるか、漢方の門をたたかれています。
その理由は、西洋医学では冷えという概念がなく、治療法が見つからないためといえます。
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さて、手足の冷えの悩みのため、おいでになられた方を紹介します。
身長162㎝、体重42㎏、痩せ型の40歳台女性。
総合病院では、血流をあげるための錠剤とビタミンEの塗薬が処方されていましたが、結果は今一つでした。
顔は色白、体温は日ごろから35.4℃と低めです。生理の周期は40日を超え、肩こりや腰に冷えを感じています。夕方には、足にむくみも見られるようです。
診療で、私の手がとても温かく感じられると話されていました。
そこで視診と触診です。
手先の爪はピンク色ではなく、血色が少し悪そうです。舌は、縁に紫色の斑点が見られます。また歯型もついています。
お腹は軟弱で、お臍の脇に軽い圧痛の点が感じ取れました。
この患者様の所見のポイントは3つです。
(1) 爪の色、舌の色、お腹の痛みから、まず「お血(おけつ)」が伺えます。
(2) 体温は低く、月経周期も遅れています。体のどこかに冷えもあり、やはり「寒症(冷え症)」です。
(3) 舌の形や足のむくみからは「水毒(すいどく)」が感じとられます。
この患者様は「お血」「寒証」「水毒」の3つがそろっていましたので、私は「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」を処方してみました。
このお薬には「四物湯(しもつとう)」という体表の血のめぐりを改善させるお薬が含まれています。そして水毒を改善させる「五苓散(ごれいさん)」の方意も重なっています。
もし頭重感、めまい、目の下のはれぼったさなどがあるようでしたら、このお薬が適合します。
案の定、この女性も時間をかけながら冷え症が改善してきました。
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ところで、
四物湯は手足が冷たいなど、体の表面が冷える方への投与を考える基本のお薬です。
なぜなら四物湯は、当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)、芍薬(しゃくやく)、地黄(じおう)で構成され、体を温める作用を持っているからです。
そして当帰芍薬散はその発展処方となります。
四物湯には他にも、目的に応じた生薬が足され、仕上がった漢方薬がたくさんあります。こうして、治療の幅がどんどん広げられていきます。
これが西洋医学にはみられない醍醐味であり、結果として複雑な冷え症治療を可能にしています。
この続きは次回に...。
「漢方トゥデイ」ラジオ日経 2016年放送分から改変