一般的な「手足の冷え」の治療には、4つの生薬で構成される「四物湯(しもつとう)」を考慮します。このお薬は時間をかけながらも血液のめぐりを改善し、体を温める作用を持っています。
ただ実際は四物湯を単体で用いるより、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)のような発展処方を優先することが少なくありません。東洋医学の長い歴史の中で発展し、成熟にいたったお薬を使用したほうが、治りが早いためです。
ちなみに、四物湯の類(たぐい)には以下のようなものがあります。
(1)人参(にんじん)、四君子湯(しくんしとう)が足された、
十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)、大防風湯(だいぼうふうとう)、温経湯(うんけいとう)
(2)黄連解毒湯(おうれんげどくとう)が足された、
温清飲(うんせいいん)、柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)、荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
(3)荊芥(けいがい)、防風(ぼうふう)などのかゆみ止めが足された、
当帰飲子(とうきいんし)
(4)阿膠(あきょう)、艾葉(がいよう)の止血剤が足された、
芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)
(5)烏薬(うやく)、益母草(やくもそう)などの気剤が足された、
芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)
(6)牛膝(ごしつ)、威霊仙(いれいせん)、桃仁(とうにん)が足された、
疎経活血湯(そけいかっけつとう)
(7)釣藤鈎(ちょうとうこう)、黄耆(おうぎ)が足された、
七物降下湯(しちもつこうかとう)
などがあります。
用い方は、たとえば温経湯というお薬。
まさに四物湯に、半夏(はんげ)、麦門冬(ばくもんどう)、阿膠(あきょう)、甘草(かんぞう) 、人参など、体にうるおいをつける生薬を追加したお薬です。
これにより体に乾燥のみられる体質、つまり口唇が乾く、口唇がむける、手が乾燥する、手がひび割れる...などの症状も改善させることができます。
当帰芍薬散はむくみのある方に処方しましたが、温経湯はそれと対称的な体質の方に投与されます。
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ところで、
中国には『黄帝内経(こうていだいけい)』という古い医書があります。それには気血の通り道として、経絡(けいらく)の存在が記載されています。
経絡には"陽気を通す「陽経(ようけい)」"と、"陰気を通す「陰経(いんけい)」"があり、陽経は体表上面を、陰経は体表下面を流れます。そして内臓には、陰経がつながります。
体表が冷えるという現象は、体表の陽気が不足して生じるものですが、冷え症としては軽いものです。
ですが現代では、薄着ファッションやエアコンの不適切使用、季節を無視した飲食、運動不足など、生活習慣の影響を受けるため、根深さを伴います。
また女性では、生理と関係した「お血(おけつ)」がわざわいすることも多く、本来体を温めるはずの「血(けつ)」ですが、これが滞り、冷えも遷延します。
そのため、このような病状には早くから四物湯類の内服をおすすめしています。
「漢方トゥデイ」ラジオ日経 2016年放送分から改変