胃腸が冷えると、気血がめぐらなくなるので、お腹に張りが強くなり、グルグル音が鳴ります。また朝方に下痢が生じやすくなります。これは、にわとりが鳴く早朝におこりやすいので、鶏鳴下痢(けいめいげり)といわれます。
そのせいで、だるくなり、集中力も低下し、日中も眠気が強くなります。
胃腸が冷える場合、体表の冷えも伴っていることが多いので、重症です。このような体質を虚弱、アトニーといいます。
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さて、中国の古い医学書「黄帝内経(こうていだいけい)には、3つのポイントが述べられています。
(1) 体には、表(ひょう)と裏(り)がある。裏とは内臓のことである
(2) 表には上面を流れる経絡(けいらく)と下面を流れる経絡があり、体全体と裏の内臓がつながっている
(3) その経絡を通して、寒と熱が調整される
少し難しい話なのですが、内臓と皮膚は経絡を通して、つながっているということです。
しいては裏(内臓)から始まる冷えは、経絡を伝って表下面~上面に及び、体全体まで冷えるようになるのです。
その原因は、大きく分けて二つ、
・内因(ないいん):今の言葉で、精神的ストレスです
・不内外因(ふないがいいん); 悪い生活スタイル、つまり不摂生や疲労です
2000年前の考え方なのに、現代と同じです。
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漢方ではこのような方々に、まず「乾姜(かんきょう)」と「附子(ぶし)」という生薬で強力に熱を与えます。
そして甘草(かんぞう)という生薬もあわせて考慮し、四逆湯(しぎゃくとう)というお薬を意識します(甘草-乾姜-附子)。
でもこれは漢方エキス剤では用意されていません。それでエキスでは生薬を分けて考えます。
・まず「乾姜-附子」の組み合わせ。これは、エキス剤では代用できませんので、近い真武湯(しんぶとう)から考えます。ただ含まれる乾生姜(かんしょうきょう)は、効能が乾姜と異なるため、方意も変わってしまいます。
・次に「乾姜-甘草」ペア。これは人参湯(にんじんとうから考えます。これにより、しっかり体の奥底から温める作用が期待できます。
それに大建中湯(だいけんちゅうとう)や苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)などの冷えのお薬も派生します。
・また「乾姜-附子-甘草」のトリオは、人参湯加附子(にんじんとうかぶし)=附子理中湯(ぶしりちゅうとう)で代用するか、人参湯に真武湯を合わせた合方を用います。
裏(胃腸)冷えると、お腹がきゅっと痛くなりやすい場合、西洋医学的では治療できません。いつもながら、それには冷えの概念が欠けるためです。
でも漢方では、これを「寒疝(かんせん)」と病名を付け、乾姜/附子/甘草で対処します。
このように内臓も冷え、体表も冷えているような重症な方には、裏から施して改善に導くのです。
「漢方トゥデイ」ラジオ日経 2016年放送分から改変