今、医療現場では国や県と連携し、コロナ第6波への備えが始まっています。一方で第5波までに生じた後遺症への対応も模索されています。
前回は、倦怠感(だるさ)に選択される漢方薬の代表として、「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」を紹介しました。
ここで、あらためて補中益気湯の特徴をあげると、
一つ目に「四君子湯(しくんしとう)」というお薬の意図を含むということです(方意といいます)。別の言い方をすれば、補中益気湯は四君子湯の発展処方といえます。
二つ目に、柴胡(さいこ)という生薬を含むということです。つまり、柴胡剤の一つといえます。
補中益気湯は、この二つの特徴を持つため、コロナ感染後遺症治療の基本薬として重宝されています。
・・・
さて一つ目の特徴について、
補中益気湯に含まれる「四君子湯」は、「人参(にんじん)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)」の4つの生薬に「大棗(たいそう)」「生姜(しょうきょう)」を合わせたお薬です。
これら生薬の絶妙なブレンドによって、食べたものがきちんと消化吸収されるようになり、心身ともに元気になります。
人は食べられないと元気がなくなります。でもそれが改善すると活気がもどります。四君子湯はこの点にはたらきかけるお薬といえます。
漢方ではこれを『捕脾(ほひ)あるいは補気(ほき) 』といいます。
江戸幕末~明治中期の漢方家『浅田宗伯(あさだそうはく)』は、医書「勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)」の中で、
「この方(四君子湯)は‥一切の胃腸の元気が虚して、諸症状をあらわすものに用いられる」とのべました。
つまりコロナ感染後、倦怠感(だるさ)から食欲不振におちいってしまった場合は、この四君子湯から用いることができるのです。
・・・
でも、もっとひどく食欲不振におちいった場合、次の選択薬として「六君子湯(りっくんしとう)」があげられます。
これは四君子湯に「陳皮(ちんぴ)」「半夏(はんげ)」という生薬が足されたお薬です。
陳皮は人参と一緒に食欲を高めることができ、半夏は朮、茯苓と一緒に胃腸内の未消化物を取り除くことができます。
これによって、ひどく沈滞した胃腸の活力をめざましく改善させます。
さきほどの医書「勿誤薬室方函口訣」では、
「この方(六君子湯)は・・胃を開く効能がある・・ゆえに大病後に胃腸が虚して、食味なきものに良い。とくに陳皮、半夏が胃口の停飲をおし開く一層の力があるため、四君子湯に比べて、最も活用できる薬」とのべています。
・・・
”疲労病への強壮剤” であった補中益気湯の派生薬としての「四君子湯」「六君子湯」ですが、
倦怠感(だるさ)が遷延して生じた”ひどい食欲不振”への治療に用いることができるのです。