このシリーズでは、感染急性期ではなく、少し時間を経たころ問題になる後遺症についてお話をしています。
2022年6月の時点で、当院でも新規感染者の診療を続けていますが、最近は“後遺症で悩む方の受診が目立つ”ようになりました。もう1年にわたる症状の患者さまも来院されています。
厚生労働省、自治体、医師会でも、この現状への対応に苦慮していますが、解決策はなかなか見つからないようです。
ちまたでは、先に対応した特定の病医院に患者さまが集まっている様子も見られますが、状況はそれほど変わらないかもしれません。
西洋医学では、細胞生物学的/病理学的に原因を推しはかり、ピンポイントに解決することを目論むため、当たれば期待も大きいのですが、かかる手間と時間と費用が膨大です。
一方漢方は古い時代から綿々と続く医療であり、体のゆがみの状況に合わせ、生薬や漢方薬を当てはめ調整をくりかえすので、手間と時間などはかかりません。ただし用い方に経験を要します。
両者はそれらの点が異なっています。
そんな中当院ではコロナ後遺症について、漢方治療に手ごたえを感じているため、このシリーズで私見を交え紹介をしている次第です。
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ところで、
新型コロナウイルス感染後遺症の悩みの一番は、倦怠感(だるさ)、続いて精神・神経症状(抑うつ)のようです。
これらは数か月に及ぶ場合があり、学校や会社に行けない方がいます。このような方々への漢方薬のファーストステップは、このシリーズの始めの方で述べました。
その次の悩みは、慢性咳です。
そこで今回は、この慢性咳の漢方薬についてお話ししたく思います。
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感染から長い時間を経ると、身体は次第に消耗し、うるおいを欠き、やがては冷えが生じます。
そのころに生じる咳は、“うるおいのない乾性咳“です。これは、感染の始めの頃に生じる“熱性炎症性の湿性咳”とは異なります。
慢性咳の特徴は、
〇 一度咳が出ると、咳混みやすい
(大逆上気:たいぎゃくじょうき)
〇 喉に引っかかりを感じやすい
(咽頭不利:いんとうふり)
〇 粘った痰がとれにくい
であり、これがダラダラ・・ダラダラ・・、なかなか改善しません。
西洋医学ではおそらく咳喘息という病名のもと、漫然と咳止めと喘息吸入薬が処方されます。
東洋医学では「滋潤(じじゅん)」、つまりうるおいを付けるため、「麦門冬(ばくもんどう)」という生薬を考えます。
麦門冬が含まれる湯液(とうえき)には「麦門冬湯(ばくもんどうとう)、麦門冬飲子、竹茹温胆湯、竹葉石膏湯、清肺湯、補肺湯、清暑益気湯、味麦益気湯(みばくえっきとう)」などがあります。
とくに麦門冬湯は、古い中国の医書『金匱要略(きんきようりゃく)』に「大逆上氣、咽喉不利、逆を止め、氣を下す者は、麥門冬湯之を主る」とあり、
顔が赤くなるほど咳き込む者、のどに潤いがない者、乾燥刺激を感じる者、病後で体力の衰えた者などに用いられてきました。
もしそれで効果が得られなかった場合は、先にあげた湯液の中では「味麦益気湯」にもお試し価値があります。
ちなみに味麦益気湯は煎じ薬であり、エキス剤にはないため工夫して、麦門冬湯に補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を合わせた近いものを代用します。
ここに新型コロナウイルス感染後遺症シリーズの最初に述べた「補中益気湯」が再登場します。
補中益気湯は、四君子湯(しくんしとう)から派生したお薬であり、それと滋潤の麦門冬湯を合わせたものが生かされます。
ここでも基本薬と縁が切れていないことに、行き当たりばったりではない、一貫性が見られるのです。