風邪の漢方薬に、
体力があり、まだ汗をかいていないようであれば・・
葛根湯(かっこんとう)を
体力がなく、汗がすでににじみ出ているようなら・・
桂枝湯(けいしとう)を
もちいることを述べました。
両薬には、生薬の“麻黄(まおう)”が含まれているか・いないか、の違いがあり、葛根湯にはそれが含まれ、桂枝湯には含まれていません。
麻黄が含まれるほうが強力に風邪症状を晴らすことができるのですが、これだけでは、胃腸の弱い虚弱者の体に障ってしまいます。
そこで虚弱者には「麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)」を考えます。
生薬の附子(ぶし)と細辛(さいしん)を逆にして「麻黄細辛附子湯」とも言われることもあります。
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ところで、昔は薬物書のことを本草書(ほんぞうしょ)といいました。
古い中国の本草書『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』には、
「(麻黄は)表を發して汗を出し、邪熱の氣を去る」もの、と書かれています。つまり体表から発汗させ、邪気を払う作用がある、ということです。
日本では、江戸時代の名医 吉益東洞(よしますとうどう)の薬剤書『薬徴(やくちょう)』に、
「(麻黄は)喘咳、水気を主治する。旁ら悪風、悪寒、無汗、身疼、骨節、一身黄腫を治す」もの、とあります。
すなわち麻黄には、
(1) 体表の熱と水分(汗)を発散させるだけではなく、
(2) 風邪ひきはじめの悪寒や関節のひどい疼痛を晴らすことが期待できる、
というわけです。
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臨床的には、麻黄附子細辛湯は、“体力のない虚弱者やご老人”の風邪に用いられます。とりわけ
・風邪の始めに発汗したため、脱力感/倦怠感が強くなってしまった
・熱感は少なく、あっても微熱程度、むしろ頭、背中、足に寒気を感じる
・頭痛が残っている
・鼻は、つまっているか、薄い鼻水が出ている
などの方に効果を発揮します。
病位は陽実証ではなく、陽虚証~陰証寄りのお薬といえます。
虚弱者の場合、麻黄の作用が強すぎると、体とくに胃腸に障りが生じるので、あえて附子や細辛を合わせ、血行を促し保温サポートをするイメージです。
漢方医は、それらしい体質と症状のある方がいれば、脉を確認したうえで、この薬を投薬します。
ピタリ適合すると緩和に向かうので、患者さんの中には、この薬のフアンの方もいます。
どうぞお試しあれ。