風邪の症状の一つに、"咳"があります。
最近はインフルエンザや新型コロナウイルスの影響で咳が長引いてしまい、内科に来院される方も少なくありません。
ただ現場で問題となっているのは、咳き止め薬が足りないことです。
そこで漢方薬での対応が求められることがあります。
東洋医学では、西洋医学にみる「咳が出れば咳き止め、喘息であれば吸入薬」というような用い方と異なり、症状の微妙な差異によって使い分けることになります。
頻用するエキス剤を並列すると、
(1) 風邪の初期~中期
(a)麻黄剤(まおうざい)
胸でゼイゼイと音が鳴り、ヒーヒーする症状を”喘鳴(ぜんめい)”といいます。
このようなときは、まず生薬の麻黄を含む漢方薬を考慮します。
麻黄湯(まおうとう):
風邪の初期で、発熱や頭痛、関節痛などの表証(ひょうしょう)を伴いつつ、咳をする方。
この薬で表証を解決すると、咳も止まります。
麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう):
熱はなく、喘鳴を伴う方。呼吸の苦しい喘息性気管支炎に進展した方。
これに生薬の桑白皮(そうはくひ)を合わせた「五虎湯(ごこうとう)」で薬効のパワーアップをはかることもあります。
小青竜湯(しょうせいりゅうとう):
熱のない、涎沫様の痰や鼻水、喘息による咳や呼吸困難に用います。発作の時ばかりではなく、発作のない時に長く服薬を続けていると、喘息の改善に導けます。
麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう):
小青竜湯を用いたくなるような咳で、気力が落ちて、寒がるような方。高齢者。
これに桂枝去芍薬湯(けいしきょしゃくやくとう);エキス剤では、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)を合わせた「桂姜棗草黄辛附湯(けいきょうそうそうおうしんぶとう)」で薬効をパワーアップさせることもあります。
神秘湯(しんぴとう):
苦しくて横になれない喘息様の呼吸発作に用います。
(b)非麻黄剤
一方風邪による喘鳴が生じているものの、胃腸が弱く麻黄剤が飲めない方には、以下の薬が用いられます。
桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにんとう):
これは桂枝湯(けいしとう)に生薬の杏仁(きょうにん)、厚朴(こうぼく)を合わせたものです。
おだかやかな効能が期待できます。
小柴胡湯(しょうさいことう):
咳をしつつ、舌が粘り、口も苦く、胸が重苦しい方に用います。
これに半夏厚朴湯を合わせた「柴朴湯(さいぼくとう)」で薬効を上げてみたり、
咳で胸の痛みを訴えれば、小陥胸湯(しょうかんきょうとう)を合わせた「柴陥湯(さいかんとう)」を用いることもあります。
麦門冬湯(ばくもんどうとう):
喉の奥に痰がへばりつき(へばりついたように感じ)、発作的に咳こむような方に用います。
竹茹温胆湯(ちくじょうんたんとう):
風邪による高熱は下がったが、まだ咳のため眠れない方、あるいは元気が萎えて、ぼんやりしている方、に重宝されます。